『痣』椎名(大庭)みな子

(講談社「群像」2008年3月号)


恥ずかしながら、私は大庭みな子先生の作品をほとんどよんだことがなく、この作品で数作品目になると思われます。
何の気なしに書店で文芸誌を眺めていたら、大庭みな子初期短編という文字が目に入り、購入してみました。
この小説の素晴らしい点はいくつも挙げることができると思いますが、
その点につきましては『痣』の後に載っている林京子先生の『人が罪を知るとき』(講談社「群像」2008年3月号P191〜)に任せるとして
(私は林京子先生の作品は幾分か読んでいて、とても好きな作家の一人でもあります)、
ここでは、この作品が二十歳にもならない作者の作品であるということに注目してみたいと思います。

 主人公が原子爆弾が落とされた直後の広島の収容所で被爆者たちと触れ、そこでいろいろな感情を与えられるわけですが、作品の随所に広島の様子が書かれています。
しかし、それよりも何より素晴らしいのは、主人公の頭(心?)に流れてくる普通ではありえないのではないかと思われる大量の感情を描写できている点につきます。
たった数十枚の原稿用紙にこれほどの感情を閉じ込めることができるでしょうか。
そして、これが二十歳になる前の人間が書いたものだということは、考えるだけで途方もなく難しいことだと理解できるでしょう。

 しかし、もしかしたら、二十歳前の筆者だからこそ書けた作品であるとも言えるのではないかと私は考えずにはいられないのです。
歳をとってからの人間の考え方というのも勿論素晴らしいとは思うのですが、
若いときだからこそ捕らえることのできる映像や感情があるのではないだろうかと私は思わずにはいられないのです。
自分が十代の頃、またはそれ以前、どのように世の中を捉えていたのか思い出すことはできないのですが、
この作品を読むことで、昔と今はものの見方が変わっていたのかもしれないな、と考えることもでき、それだけでも素晴らしいと思うのです。

 

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